”白い帽子”<八月八日> -壱- 私は大坂の小さなアパートで目を覚ました。三女が仕事に出ると言うので起こされたのだ。 朝の六時四十 分。 何が何でもこれでは早すぎると、三人は又布団にもぐった。 ひろみは中学三年生。 和子に似合わず・・・・実に可愛い子である。 洲鎌家はこの下に一男一女がいる6人姉妹(男の子一人)である。 「布団ぐらい上げといてよ!」 「・・・・・・。」 「家の鍵掛けといてよ!鍵は表の牛乳箱の中に入れといて。」 「・・・・・・。」 「わかった?聞こえてるよね!」 「うん。牛乳の箱ね!」 「会社遅れるから・・行くね!乾さん頑張ってね。生きて帰って よ!話聞きたいから!」 「有難う!」 「じゃあ!」 9:00過ぎ、やっと布団から抜け出した。 朝食をとって、ガスと電気のチェックをして、家の鍵を掛けた。 鍵は三女が言ったように牛乳の箱の中に落とし込んだ。 「こんな所に入れといて大丈夫なんかな?」 「大丈夫よ!盗られるもんなんか何にも無いんだから。」 「それもそっか!」 三人とも大きな荷物をガラガラと引きずりながら、小さなガード をくぐり、小さな橋を渡り、神崎川の駅に出た。 暑い陽ざ射しが心地 よかった。 今頃、友達は満員電車に顔をゆがめ、冷房の効いた部屋で、暑い太陽 の陽射しを 知らず、5:00がくるのをひたすらジッと待ち、時計と睨めっ こしている事だろう。 何日か前の私もそうだった。 ほんのちょっとサイクルが違っただけで、この陽ざしが心地いい。 ひろみが車の付いた大きな荷物を前かがみになってガラガラと音 をたてて引っ張って行く。 「ひろみ!あの白い帽子・・・・どうした!」 昨日の夜、ひろみは私と同じ白い帽子を買っていた。 「荷物の中に入れてある。」 「暑いだろう!何で買った帽子被らないんだ!」 「だって・・・・・もったいないもん。」 と、言って笑った。 神崎川の駅から電車に乗り込むと、梅田に向かった。 大阪のことはまるでわからない。 これから大阪南港へ向かうのだが、どこをどう行けば良いかまるで理 解していない。 全て、和子に任せっきりにして私はひろみと良くおしゃべりをした。 妹のいない私にとって、妹が出来た気分で楽しんでいたのだ。 梅田の駅で、地下鉄(御堂筋線)に乗り換えて大国町に出た。 駅を出ると、すぐタクシーを拾い大阪・南港へ向かった。 |